大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行コ)85号 判決

東京都千代田区一番町二三番地二

控訴人

共立酒販株式会社

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

井上励

和田元久

埼玉県越谷市赤山町五丁目七番四七号

被控訴人

越谷税務署長 飯塚要

右指定代理人

加藤裕

井上良太

黒尾眞澄

宇田川裕一

主文

一  本件控訴を棄却する。

一  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成四年八月二七日付けでした酒類販売業免許を付与しない旨の処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

事案の概要は、原判決の事実及び理由欄の第二に記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  憲法二二条一項違反について

(一) 憲法二二条一項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解される。しかし、職業の自由は、同条自体が特に公共の福祉に反しない限りという留保を付しているとおり、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公共の目的による規制の要請が強い。そして、職業の自由に対する規制措置の憲法二二条一項に関する適合性は、具体的な規制措置につき、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。その合憲性の司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその具体的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきであるが、右合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得る。ところで、一般に許可制は、一般的な禁止・制限がその前提となるものであり、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである(最高裁昭和五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)。

他方、憲法は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等については、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とすることのみを定め、その具体的内容は、法律の定めるところにゆだねている(三〇条、八四条)。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再配分、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とし、さらに、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とする。したがって、租税法の定立については、国家財産、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねられ、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重すべきものである(最高裁昭和六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参照)。

以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできない(最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二八二九頁参照)。

(二) 酒税法は、酒類には酒税を課するものとし(一条)、酒類製造者を納税義務者と規定し(六条一項)、酒類等の製造及び酒類の販売業について許可制(法令上の文言は免許)を採用している(七条ないし一〇条)。これは、酒類の消費を担税力の表れとして、酒類についていわゆる間接消費税である酒税を課することとするとともに、その賦課徴収に関しては、いわゆる庫出税方式によって酒類製造者にその納税義務を課し、酒類販売業者を介しての代金の回収を通じてその税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みによることとし、これに伴い、酒類の製造及び販売業について免許制を採用したものである。酒税法は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要から、このような制度を採用したものと解される。

酒税が、沿革的に見て、その絶対額の国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、その酒類の販売代金に占める割合も高率であったことにかんがみると、酒税法が昭和一三年法律第四八号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる(前掲最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決参照)。

(三) そこで、本件処分当時である平成四年八月二七日の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性があったか否かについて検討する。

甲第七、第一〇、第一三、第二七、第三九、第六六ないし六八号証及び乙第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 酒類販売業免許制度が導入される直前の時期である昭和九年度から同一一年度の酒税収入の額は平均約二億円であり、その国税収入に占める割合は、約一七・六パーセントであった。

酒税収入の額は、戦後の昭和三〇年度から昭和六三年度まで、ほぼ一貫して漸増傾向が続き、同六三年度には、約二兆二〇〇〇億円となったが、平成元年度には一兆七〇〇〇億円台に低下し、同二年度ないし四年度には、いずれも一兆九〇〇〇億円台となった。

酒税収入の国税収入に占める割合は、戦後の昭和三〇年度には、約一七・一パーセントであったが、同四〇年度には、約一〇・八パーセントとなり、以後おおむね漸減傾向が続き、平成元年度ないし同三年度には、いずれも約三・一パーセントとなり、同四年度には、若干増加して約三・四パーセントとなった。

酒税収入の国税収入に占める順位は、平成四年度には、所得税(約二三兆円)、法人税(約一四兆円)、消費税(約五兆二〇〇〇億円)、相続税(約二兆七〇〇〇億円)に次ぐ五番目(約二兆円)であった。

(2) 酒の種類ごとの販売代金に占める酒税の割合(酒税負担率)は、昭和九年度から同一一年度には、それぞれビールが約二六パーセント、清酒(旧二級クラス)が約三二パーセント、しょうちゅう甲類が約三三パーセント、ウィスキー類(旧二級クラス)が約一七パーセントであったが、平成四年度には、ビールが約四四パーセント、清酒(旧二級クラス)が約一八パーセント、しょうちゅう甲類が約二一パーセント、ウィスキー類(旧二級クラス)が約五〇パーセントであり、清酒(旧二級クラス)及びしょうちゅう甲類は、その割合が低下しているが、ビール及びウィスキー類(旧二級クラス)は、その割合が増加している。

(3) 酒税の滞納率は、酒類販売業免許制度採用前の昭和四年度から同一〇年度の間はおおむね約一-二パーセント、同一一年度には約〇・四パーセント、同一二年度には約〇・一パーセントであったが、酒類販売業免許制度採用後の昭和一三年度には約〇・〇パーセントとなった(控訴人の平成七年九月一八日付け準備書面添付の主税局第六十六回統計年報書昭和十四年度・四八・国税滞納表によるもの)。その後の滞納率は、明らかでない。

(4) 酒類製成数量は、昭和一五年度には、約九四万キロリットルであったが、戦後の昭和三〇年度には、約一四〇万キロリットルとなり、以後ほぼ一貫して漸増傾向が続き、平成元年度には、約八四〇万キロリットル、同二年度には約八八〇万キロリットル、同三年度には、約九〇〇万キロリットル、同四年度には、約九二〇万キロリットルとなった。

酒類製成数量の酒類別構成比は、ビール、清酒、しょうちゅう、ウィスキー類、その他に区分すると、昭和一五年度には、ビールが約二九パーセント、清酒が約五〇パーセント、しょうちゅうが約一〇パーセントであったが(この年度には、ウィスキー類とその他を明確に区別する統計資料が提出されていない。)、戦後にはビールの構成比が次第に増加し、平成四年度には、ビールが約七六パーセント、清酒が約一一パーセント、しょうちゅうが約六パーセント、ウィスキー類が二パーセント、その他が約五パーセントであった。

(5) 酒類の輸入数量は、昭和四五年度ころまではわずかであったが、同五〇年度ころからウィスキー類を中心として顕著な増加傾向が続き、平成四年度には、ビールが約一一万キロリットル、ウィスキー類及び果実酒類がいずれも約五万キロリットルであり、輸入数量が国産数量及び輸入数量の合計値に占める割合は、ビールが約一・六パーセント、ウィスキー類が約二五パーセント、果実酒類が約四四パーセントであった。輸入酒類の酒税の納税義務者は、酒類を保税地域から引き取る者である(酒税法六条二項)。

(6) 酒類小売販売業の免許場数は、昭和一三年九月三〇日には約三四万場であったが、平成四年三月三一日には、約一六万場であった。

(7) 酒類の価格制度は、昭和一四年に統制価格制度が採用され、同三五年に統制価格制度が完全に廃止されて基準販売価格制度が採用されたが、同三九年には同制度も廃止されて自由価格制度となった。

(8) 昭和三九年に最終答申を作成した臨時行政調査会(いわゆる第一次臨調)において、酒類販売業免許制度が調査の対象となり、最終答申では触れられなかったものの、調査段階では、消費者の利便、需給の円滑化、酒類販売業界の体質改善などの観点から同免許制度を維持することに疑問があるとの意見もあった(甲第三九号証)。

公正取引委員会の事務局長の私的諮問機関である経済調査研究会は、昭和五九年一一月ころ、酒類販売業免許制度の運用に当たっては、できる限り新規参入を自由にするなどの検討が必要であろうとの報告を発表した(甲第二七号証)。

日本経済新聞は、平成二年三月一八日、「日米構造協議の場で米国が洋酒の販売を促進するために取扱店の拡充を強く求めてきたため、政府は平成六年までに酒類販売業の免許を大幅に拡大することを決めた。」旨の報道をした(甲第一〇号証)。

経済同友会は、平成六年一一月一六日、規制緩和・撤廃に関する要望をまとめ、関係省庁に提出したが、その一項目として、酒類小売販売業の免許制から届出制への変更の要望もあった(甲第一三号証)。

行政改革委員会の規制緩和小委員会は、平成七年一一月一七日、規制緩和策に関する報告書の素案をまとめたが、その一項目として、酒類小売販売業免許制度の五年後の廃止を明記した(甲第六六、六七号証)。

日本経済新聞及び毎日新聞は、平成八年一月二五日、「大蔵省・国税庁は、酒類販売業免許制度の緩和ないし見直しのため、国税庁長官の諮問機関である中央酒類審議会で、今春から需給調整要件の撤廃も視野に入れた検討を開始し、早ければ、平成一〇年度の通常国会に酒税法改正案を提出する方針である。」旨の報道をした(甲第六八号証)。

以上のとおり、本件処分日の属する平成四年度において、酒税収入の国税収入に占める割合が約三・四パーセントであったものの、酒税収入の額は約一兆九〇〇〇億円台であり、その国税収入に占める順位は五番目であり、酒税が酒類の販売代金に占める割合も高率であることに照らすと、本件処分当時もなお、前記(二)説示のとおりの酒税の賦課徴収に関する仕組みは、理論的な合理性を失うに至っているとはいえないと認められる。しかしながら、酒税の滞納率が酒類販売業免許制度の採用前後においてさほど大きな差があったとはいえないこと(この点についての被控訴人による適切な反証はない。)、酒類製成数量が戦前と比較して格段に増加しているが、酒類小売販売業の免許場数は、むしろ、戦前の昭和一三年当時と比較してほぼ半数となっていること、そもそも、酒税確保のために納税義務者たる製造者に加えて販売業者をも免許制にすることの合理性には疑問もあること(少なくとも、輸入された酒類については保税地域から引取り前に酒税を納付することになっているから、その販売について特別の規制をする必要はないし、製造者が販売業者に販売する際に代金確保の手段をとることあるいは製造者に対し酒税確保の担保措置を講ずる等によっても代替できるはずである。)、酒類の価格制度が昭和三九年に完全に自由価格制度となったこととの関連において販売制度についても免許制度を維持するか否かについて検討の余地のあり得ること、近時、酒類の輸入数量が増加しているため、国際的協調の観点から酒類販売業免許制度の緩和について検討の余地のあり得ること、消費者の利便、需給の円滑化、酒類販売業界の体質改善などの観点から酒類販売業免許制度についてこれを疑問とする意見や運用改善を必要とする報告があったこと、既存業者の権益の保護に利用され兼ねない要素をもつこと、同じ間接税である消費税等の納税確保手段との均衡も考慮されるべきこと、本件処分後ではあるが、規制緩和の観点から同制度についてこれを届出制に変更する旨の要望や廃止することを明記する報告などもあり、中央酒類審議会で同制度についての検討が開始されたとの報道もなされていることなどの事実に照らすと、本件処分当時には、酒類販売業免許制度についてはその歴史的使命を終え、その必要性及び合理性について、政策的・技術的に多面的な検討をすべき時期になっていたものと認められる。しかし、前記(二)説示のとおりの酒税の賦課徴収に関する仕組みの理論的な合理性に加えて、右免許制度による規制の対象が、そもそも、致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまること(警察上ないし国民保健上の見地から規制の余地は十分ある。)、既存の制度の改廃の困難をも考慮すると、本件処分当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとしていた立法府の判断が、前記(一)説示のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定し難い(昭和五一年当時の処分についてではあるが、その合憲性を肯定したのが、前掲最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決である。)。

しかし、現時点では、右最高裁判決からも既に五年が経過しており、酒税法による酒類販売業免許制に対する疑問は、増しこそすれ、減少してはいない。立法府におけるすみやかな検討と善処が望まれるところである。

(四) 右のような職業選択の自由に対する規制措置については、当該免許制度の下における具体的な免許基準との関係においても、その必要性と合理性が認められるものでなければならないことはいうまでもない。

そこで、本件処分の理由とされた酒税法一〇条一〇号の免許不許与基準について検討する。同号は、免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定める者であって酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる最も典型的な場合を規定したものということができ、右基準は、酒類販売業免許制度を採用した前記のような立法目的からして合理的なものということができる。また、直ちに同号の規定が不明確で行政庁のし意的判断を許すようなものであるとも認め難い(し意的判断があるときは、まさに処分取消しの対象となる。)。そうすると、右のような免許不許与基準を定める酒税法一〇条一〇号の規定及びその前提として酒類販売業の免許制度を定める同法九条の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法二二条一項に違反するものということはできない(前掲最高裁平成四年一二月一五日第三小法廷判決参照)。

2  憲法一四条違反について

控訴人は、酒類販売業免許制度が、酒税収入確保のために既存の酒類販売業者の経営の安定を図ることとなり、憲法一四条に違反する旨主張する。しかし、酒類販売業免許制度は、前記1(二)説示のとおり、酒税収入確保のための制度であって、既存の酒類販売業者の経営の安定を図るための制度ではないから、右主張は採用できない(既存の酒類販売業者の権益確保のために利用するようなことが許されないことは、いうまでもない。)。

3  憲法三一条違反について

控訴人は、酒税法一〇条一〇号の免許不許与基準が明確性を欠き、憲法三一条に違反する旨主張する。しかし、前記1(四)説示のとおり、同号の基準が、不明確で行政庁のし意的判断を許すようなものであるとは認め難いから、右主張は採用できない。

4  適用違憲・運用違憲について

控訴人は、本件処分が、既存の酒類販売業者の利益を保護するため、酒類のいわゆる安売り業者である控訴人の新規参入を阻止しようとしてされたものであって、憲法二二条一項に違反する旨主張する。しかし、後記二認定のとおり、本件処分は、控訴人の経営の基礎が薄弱であると認められたため、酒税法一〇条一〇号に該当するとしてされたものであるから、右主張は採用できない。

なお、控訴人は、本件処分を離れて、一般的に、酒類販売業免許の運用実態が既存の酒類販売業者の利益を保護するためにし意的になされているから、酒類販売業免許制度自体が、憲法二二条一項に違反する旨主張する。確かに、昭和六〇年二月二一日発行の酒販ニュース(甲第八号証)及び弁論の全趣旨によれば、同月六日に開催された全国小売酒販組合四国ブロック会議において酒類販売業免許の運用につき責任ある立場にあると推察される高松国税局間税部長が、「酒類販売業の免許申請につき、通達基準によれば一万一〇〇〇件の許可をしなければならないところ、運用の実態としては、できる限り抑え、年間二〇件ほどの許可しかしていない。そのために一線の統括が苦労している。スーパーマーケットは安売りをする危険性がある。」旨の発言していることが認められるところ、右発言は、酒類販売業免許の運用実態として本来の立法趣旨に沿わない処理が行われていることを窺わせるものである。しかし、このような運用実態のあることは、直ちに同免許制度に関する規定の全体を違憲と判断すべきものとするには足りないといわざるを得ない。

二  争点2について

1  甲第一、第三号証、乙第九、第一〇号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 控訴人は、元々、昭和五〇年に、商号をアド・コマとし、書籍雑誌の出版及び販売などを目的とし、資本金を二〇〇万円として設立された株式会社であるが、同五九年に解散し、同六一年に商号を桃季出版と変更して継続することとし、平成三年八月一五日に商号を現在のものに変更し、同月二八日に資本金を五〇〇万円に増資した。

(二) 控訴人は、昭和五三年四月から平成三年三月までの一三年間、法人税の確定申告書を所轄税務署長に提出していなかった。また、控訴人は、平成元年度の不動産取得税一万〇五〇〇円、同二、三年度の固定資産税各四七〇〇円を滞納していた。

(三) 控訴人は、平成三年九月三〇日、本件免許申請をした。

(四) 本件免許申請当時、控訴人の代表取締役は古市ふさであったが、同女は高齢であり、入院中であり、また、控訴人の取締役として古市みつ子がいたが、同女も入院中であった。

(五) 控訴人は、本件免許申請の直前の平成二年九月一日から同三年八月三一日までの一年間、営業活動を全くしていなかった。また、控訴人の本件免許申請直前の平成三年九月一〇日時点で作成された貸借対照表(乙第一〇号証)によれば、その資産は、三〇〇万円の現金及び預金、約一〇〇〇万円相当額の土地・建物・構築物・什器備品、一八〇〇万円の建設仮勘定、二一〇〇万円の繰延金があり、その負債として一七〇〇万円の長期借入金があるほか、資本の部には三〇九六万の増資預り金が計上されていた。この貸借対照表上の資産とされている建設仮勘定、繰延金の内容は明らかでないし、増資預り金なるものを資本として計上する扱いも理解し難い。株式払込金に転化するものであれば、払込取扱銀行の保管証明が必要であるから(商法二八〇条ノ一四第一項、一八九条)、本来預金になっていなければならない。なお、控訴人は、その当時、酒類を販売できる店舗を有していなかった。

また、控訴人は、本件免許申請の二〇日前の平成三年九月一一日に、富士銀行本店に二五〇〇万円を自由金利型定期預金として預け入れたが(本件定期預金)、その原資は、二二〇〇万円が控訴人の現在の代表取締役(平成六年五月三〇日就任)である古市滝之助からの借入金であり、三〇〇万円が控訴人の有していた預金であった。しかし、控訴人は、同年一二月一六日に本件定期預金を解約し、内金約五〇〇万円を控訴人の債務の支払に充て、残金約二〇〇〇万円を控訴人名義の普通預金として預け入れ、平成四年二月二八日までに同預金のほぼ全額を払い戻し、本件処分当時の同年八月二七日には、同預金として八一七円のみを有する状況となっていた(右の経過からすれば、右二五〇〇万円はいわば「見せ金」であったと評価されてもやむを得ない。)。

(六) 控訴人は、本件免許申請当時、帳簿を作成していなかった。控訴人の現在の代表取締役は、平成四年三月二三日、本件免許申請の調査のために訪れ、帳簿書類等の提示を求めた担当職員に対し、帳簿を作成していない旨を告げた。

2  以上の事実によれば、控訴人は、本件免許申請当時においても、法人の沿革、役員構成、営業実績、販売施設、資産(株式会社である以上、その総資産及び純資産の存在及び額が重要であり、借入金による資金の存在は、その経営基盤の強固さを示すものとはいえない。)などのいずれの点についても、その経営の基礎に問題があり、本件定期預金及びその解約金の普通預金もほとんど払い戻されていた本件処分当時には、その経営の基礎が薄弱であったものと認めることができる。

そうすると、酒税法一〇条一〇号に該当するとしてされた本件処分は、適法というべきである。

三  争点3について

控訴人は、被控訴人のした本件処分は、故意に不当に長期間処分をせず、本件免許申請から約一一月後にしたものであるから、違法である旨主張する。

確かに、酒類販売業の免許の申請があった場合に、税務署長は、相当の期間内に免許の許否の処分を行うべきものであり、相当の期間が経過した後は、その許否の処分をしないことは違法である。しかし、税務署長が相当の期間内に免許の許否の処分を行わないことの違法、すなわち不作為の違法(これによる損害賠償請求の余地はある。)と処分の違法とは別の問題である。本件処分の適否は、専ら本件処分時を基準として判断されるべきである。また、本件において、酒税法上、右期間の経過が当該処分の違法事由となる旨の規定はなく、また、このように解すべき法律上の根拠もない。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

四  争点4について

控訴人は、本件処分に対する審査請求につき国税局長が同審査請求から二三か月後に裁決をしたことが、本件処分の違法事由となる旨主張する。

しかし、裁決をしないことの違法と裁決の違法とは別の問題である上、裁決固有の違法事由の存在が、本件処分を違法とする事由になるものではない。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

第四結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉威雄 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本昇二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例